花鳥風月
: UPDATE /
マロニエの木が葉を大きくし、4月には桜やリラが咲き誇っていた春のパリ。公園には鮮やかな緑が広がり、とてもにぎやかに小鳥がさえずっています。ハトはもちろん多いのですが、枝を見上げるとシジュウカラやヨーロッパのコマドリ、外来の緑のインコ(ワカケホンセイインコというらしい)もいます。私が行く公園には人口の池もあるので、今週はマガモのカップルが芝生を歩いていました。枝から枝へ、木から木へと小鳥が飛び移る様子は見飽きることがありません。花鳥風月という言葉がある通り、私たちは季節の変化や、ひとときとして同じではない自然の様子に心を寄せるようにできているのですね。

満開のリラ
10種類のチーズ
さて以前のコラムでチーズ販売員・熟成士の岩田加奈子さんを紹介しました。パリでは単身赴任で仕事をされていましたが、季節が夏に変わるころ本拠地の南フランスに戻り、ご主人のワイン作りを一緒にされることになっています。チーズ作りもワイン作りも自然、季節と連動した人の営みですね。ご夫婦でこれからもおいしいワインを作られるのを楽しみにしています。
加奈子さんが選んで持ってきてくれるチーズは、最上の状態のもので、どれも間違いなくおいしいので、友人たちは我が家のチーズ会を実は楽しみにしているようです。今回彼女のおかげで出会ったチーズの中から皆さんにいくつか紹介したいと思います。
加奈子さんが選んで持ってきてくれるチーズは、最上の状態のもので、どれも間違いなくおいしいので、友人たちは我が家のチーズ会を実は楽しみにしているようです。今回彼女のおかげで出会ったチーズの中から皆さんにいくつか紹介したいと思います。

10種のチーズを3つのプレートに盛り付け
フランス、イギリス、スイス、スペインのチーズ

左からトム・ド・サヴォア、イギリスのスモークド・チェダー、スイスのエティヴァ、スペインのローズマリーまぶしたマンチェゴ
スモークド・チェダー
オリーブの古木のまな板に載せたのは、4種のハードタイプ、セミハードタイプのチーズです。イギリスのチーズの中ではスティルトンと並んで、上の写真の左から二番目のチェダーは代表的なチーズです。今回は、スモークされた熟成チェダーを選んで持ってきてくれました。チェダリング* でできた微細な空洞が開いていて、自然にできた茶色かかった黄色の表皮の見た目から、熟成の長いチェダーだと推測できます。写真手前の柄がねずみの形をしたナイフを縦に使うと、熟成チェダーはポロポロとくずれて、一口サイズのかけらになります。私はお酒が飲めないので想像ですが、熟成チェダーはウイスキーの香りやクリアな味わいのビールと合いそうです。検索するとチェダーにウィスキーの香りを移したチーズがありました!熟成チェダーはおいしいものですが、軽くスモークされたチェダーはあとをひくおいしさです。
* チェダリングとは?
Wikipediaによれば「加熱後にカード(牛乳の凝固成分)をこねて塩と混ぜあわせ、ホエー(乳清)を抜きやすくするため四角く切ったものを積み重ね、熟成させる」こと。
* チェダリングとは?
Wikipediaによれば「加熱後にカード(牛乳の凝固成分)をこねて塩と混ぜあわせ、ホエー(乳清)を抜きやすくするため四角く切ったものを積み重ね、熟成させる」こと。
マンチェゴ
上の写真の一番右は、羊乳を原料とするスペインのマンチェゴにローズマリーをまぶして熟成したもの。スペインチーズとしては最も有名でしょう。ここ10数年の流行りなのか、マンチェゴに限らずドライハーブをまぶしたチーズをよく見かけます。このマンチェゴとローズマリーは組み合わせの妙で、マンチェゴの旨みとローズマリーの爽やかな香りがよく合います。
スペイン人はフランスの柔らかなチーズを好まない人もいるそうです。パリに留学できていたスペイン人の若い女性がこう言っていました。「私のお父さんったら『フランスのチーズ、あんなふにゃふにゃしたものはチーズじゃない。保存の実用性からもかけ離れている。俺は食べないから買ってこなくていい」なんて言うの。」マンチェゴ、確かに固くしまっているけれど、旨みと甘みがあって不動の人気のブルビです。もちろんパリのチーズ店にも置いています。私自身は地産地消を意識して買い物をしていますが、そうはいってもフランス産にこだわっていません。和食を作って食べますが米はイタリア産ですし豆腐もパリ近郊で作られたものです。イギリスにも、スペインにも、これから紹介するイタリアのチーズにも個性が際立つ、おいしいものがいくつもあります。
スペイン人はフランスの柔らかなチーズを好まない人もいるそうです。パリに留学できていたスペイン人の若い女性がこう言っていました。「私のお父さんったら『フランスのチーズ、あんなふにゃふにゃしたものはチーズじゃない。保存の実用性からもかけ離れている。俺は食べないから買ってこなくていい」なんて言うの。」マンチェゴ、確かに固くしまっているけれど、旨みと甘みがあって不動の人気のブルビです。もちろんパリのチーズ店にも置いています。私自身は地産地消を意識して買い物をしていますが、そうはいってもフランス産にこだわっていません。和食を作って食べますが米はイタリア産ですし豆腐もパリ近郊で作られたものです。イギリスにも、スペインにも、これから紹介するイタリアのチーズにも個性が際立つ、おいしいものがいくつもあります。

ブルー・ド・ジェックス、イタリアのタレッジオ、クロウスー
タレッジオ
上の写真の真ん中がイタリアDOP(原産地保護名称)チーズ、ロンバルディア地方(イタリアの北部)で作られるタレッジオです。ウォッシュタイプは上級者編のチーズが多いと個人的に感じます。その中では食べやすく、塩気がくっきりしていて舌にクリームのなめらかさを感じられるチーズです。またバターのような風味もあります。手元にある磯川まどか著の「フロマージュ」によれば、タレッジオは型入れしてから重しをのせて作るため、しっかりしたテクスチャになっているとのこと。同書によれば、11世紀の記録にこのチーズを熟成させるためにヴァルサッシーナの洞窟へ運び入れたというものがあるそうです。同地のGildo Fromaggi* というタレッジオを含め数種類のチーズ生産、熟成をする会社のサイトには、自然の換気口があるこの谷の洞窟がチーズの熟成に理想的な温度や湿度になっていたとあります。19世紀にはすでにこの谷はタレッジオの生産で有名で、同世紀後半に地下通路のある石造りの非常に大きなカーブが建設されたとのこと。19世紀後半といえば、イタリア王国が成立して統一された頃です。タレッジオが世界的に有名なチーズになった背景には、天の時と地の利(ヴァルサッシーナ)と人の和(生産や運搬方法の改善、法人化)が大きく影響しているのかもしれません。
* Gildo Fromaggi
* Gildo Fromaggi
チーズという切り口からフランスをはじめヨーロッパの地理や歴史、人を知る面白さを感じてコラムを書いてきました。何であれ興味を惹かれると、調べたり、読んだりするのが好きですし、機会をつくって実際にその土地に行ったりするのはさらに楽しいものです。書くのがちょっと恥ずかしいのですが、一年ちょっと前に韓国ドラマを初めて見ました。「愛の不時着」という有名作品です。セリフを含めたシナリオやテンポ、挿入歌の良さ、一話が70分を超える長尺、主役だけでなくサブキャストの俳優の放つ魅力がエネルギーに衝撃を受けました。字幕を見ながらですが、時々日本語に似た言葉が聞こえるので、面白くなって数ヶ月前から韓国語を勉強しています。そしてもうすぐ韓国を旅行します。皆さんは今どんなことに興味がありますか。ちょっと深く掘ってみると、きっと楽しいですし、思ってもみない展開が待っているかもしれません。また、秋にコラムでお会いしましょう。