春を待つ2月

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プロヴァンスや南フランスでは、1月初旬エピファニー*1の時期にリング型のブリオーシュをいただきます。地域によってバラエティがあるようで、一般的なのはガレット・デ・ロワと呼ばれるアーモンドクリームの入ったパイです。南フランスでは、フルーツのコンフィがたっぷり入った、オレンジフラワーウォーターで香り付けしたこんなブリオーシュをいただきます。日本でもすっかり知られるようになったガレット・デ・ロワと同じく、このブリオーシュもフェーブ入りです。

そんな一月初旬に、フランス人にとって、また日本人にとっても見過ごせない大きな事件がいくつかありました。1月6日のシャルリー・エブド襲撃事件と9日のユダヤ食品スーパーの人質事件です。1月11日には犠牲者の追悼に370万人もの人々がフランス各地で大行進を行いました。その後の日本人人質殺害も大変ショックな事件でした。テロ警戒レベルはいまだに最高レベルのままですが、パリの人々は普段通りに生活しています。普段よりもパトロール警備中の兵士を街で見かける事が増えました。

*1 エピファニー:イエス・キリストの顕現を記念する祝日

Gâteau des Rois(ガトー・デ・ロワ)
Gâteau des Rois(ガトー・デ・ロワ)

ヌフシャテル

2月14日はサン・ヴァランタン(バレンタインデー)でした。その日は週末の土曜日で朝から外出していたのですが、さすがはフランス?マルシェの買い物袋と花束を手にした男性をたくさん見かけました。女性から男性にチョコレートを送る習慣はありませんが、サン・ヴァランタンの日に、お互いにちょっとしたプレゼントを送り合うカップルもいます。

白いハート型のNeufchâtel(ヌフシャテル)はバレンタインデー前後にはいつもよりも目立つ場所に置かれています。シリンダー型やレンガ型のものもあるようですが、Neufchâtelというとこのハート型のイメージがあります。実はヌフシャテルを初めて食べました。カマンベールのような外見とは裏腹に意外と塩味がきいています。

原産地のノルマンディはフランスの北東に位置します。イギリスとフランスの百年戦争の時代のことです。イングランドの支配地域にあったNeuchâtel en Bray(ヌフシャテル・オン・ブレー)の若い女性達がサン・ヴァランタンの日に、ハート型のチーズをイギリス人兵士に送ったと手元のチーズ図鑑*2にありました。このチーズ自体は1035年から記述に残っていますし、ヨーロッパのチーズ作りは中世、家庭で行われていたことを考えても、百年戦争の時代にハート型チーズをプレゼントした、そんなことがあったのだろうなと思います。

*2 Les Guide des Fromages MILAN

品名 Neufchâtel AOP(ヌフシャテル AOP)
産地 ノルマンディ地方のペイ・ド・ブレ
大きさ 幅10cm, 縦8.5cm, 厚さ3.2cm
重さ 200g
ヌフシャテル(左)とトム・ド・サヴォア(右)
ヌフシャテル(左)とトム・ド・サヴォア(右)

トム・ド・サヴォア

Tomme de Savoie(トム・ド・サヴォア)のように「どこどこのトム」と原産地の地名のついたトムはたくさんあります。Abondance(アボンダンス)、Beaufort(ボーフォール)、Reblochon(ルブロション)などフランスの南西 サヴォア地方とその隣のオート・サヴォア地方では標高の高さを生かした山のチーズがたくさん作られています。その一つがトム・ド・サヴォアです。仲間のチーズにTome des Bauges(トム・デ・ボージュ)という名前のチーズがあり、こちらはトム・ド・サヴォアの仲間で唯一AOPの認証を得ています。

アルプスの麓で作られるこれらのチーズですが、チーズごとに特徴があります。それぞれ牛の食んだ花と草の香りが立つもの、ナッツの風味があるものなど個性があり、季節によっても風味が異なるようです。特においしかった、というのでなければ味わいを忘れ、各チーズの特徴を詳しく理解するところまではいかないのが本当のところです。共通するのはまろやかなミルク味です。こういうハードタイプのチーズは大人も子供も好み、無駄をきらう主婦の目線で見ても冷蔵庫で保存もきくので買いやすいです。日にちが経ってしまっても、チーズおろしで細かくしてパスタにかけたり、ジャガイモと一緒にオーブンに入れたりと無駄がありません。水分の多い柔らかなチーズと違って一日、二日で食べきる必要がなく、少しずつ楽しむことができます。

アニメのアルプスの少女ハイジにでてくる景色や食事を覚えている方も多いと思います。ハイジに出てくるチーズには穴があいていたから「エメンタール」だよという友人がいれば、串にさして暖炉で溶かして食べていたから「ラクレット」系のチーズでしょという人もいて真相は分かりません。でもあれは何というチーズだったんだろうという疑問は割と多いみたいで、ハイジ+チーズでのGoogle検索結果は46万4000件もありました。

皆さんはハイジのチーズ、何だったと思いますか?私はトム・ド・サヴォアみたいなチーズだと思い込んでいました。今考えれば、ハイジの食卓に並んでいた黒っぽいパンとごっちゃにしていたのかもしれません。

品名 Tomme de Savoie(トム・ド・サヴォア)
産地 ローヌ・アルプ地方のサヴォア
直径 18 ~ 30cm
重さ 1.5 ~ 3kg

オーストリア・アルプスの山の食事

トム系のチーズが数多いオート・サヴォア地方やサヴォア地方はスイス、イタリアと接しています。フランス人からするとアルプス山脈のこちら側はサヴォア地方、向こう側にスイスやイタリア、オーストリアがある感覚でしょうか。一番高い山はモンブラン(4810m)です。

オーストリア・アルプス
オーストリア・アルプス

フランスのサヴォア地方にはメリベルを始め数々の有名なスキー場がありますし、スイスもまたしかりです。縁があってここ10年ほど、オーストリアのスキー場に行くようになりました。オーストリアの最西部フォアアールベルグ州にあるLech(レッヒ)とZürs(ツュルス)というところです。スキー場も、進んだ環境保護対策をしている町も、滞在先の家族経営のZürsのホテルも、すべてにおいてすばらしいところです。

滞在先のホテルはスロープとつながっていて、お昼には帰ってきて食事をします。アルプスの山の食事は、どんなのだと思いますか。フランス・サヴォアの山のチーズやスイス・アルプスのハイジの話を紹介した今回のコラムの締めくくりに、オーストリア・アルプスの食事を紹介します。

Tiroler Gröstl(チロラー・グロステル) 肉とタマネギとジャガイモをいためた郷土料理
Tiroler Gröstl(チロラー・グロステル)
肉とタマネギとジャガイモをいためた郷土料理
Käsespätzle(ケーゼシュペッツレ)
Käsespätzle(ケーゼシュペッツレ)

ドイツ、オーストリア、南チロルのマカロニ&チーズ。自家製で作った卵麺は柔らかでマカロニとは食感が違います。

レシピ http://www.austria.info/uk/austrian-cuisine/kaesespaetzle-1561136.html

トナカイのソーセージ ザワークラウト添え
トナカイのソーセージ ザワークラウト添え

 

Kaiserschmarren(カイザーシュマレン)
Kaiserschmarren(カイザーシュマレン)

ほぐしたフワフワのパンケーキ。レーズンが入っていて、粉砂糖をふって仕上げています。プラムのジャムをつけていただきます。

レシピ http://www.austria.info/uk/austrian-cuisine/kaiserschmarren-1561302.html

チーズはケーゼシュペッツレしか写真に出ていませんが、アールベルグ州は地理的にも文化的にもスイスに近いため、チーズもチーズ料理も多いそうです。トナカイのソーセージ以外の料理はオーストリアの観光局のHP(英語版。日本語版には同じレシピがありません)にレシピが載っています。

フォアアールベルグ州や隣のチロル州の郷土料理に加えて、ウイーン風仔牛のカツレツのウィンナー・シュニッツェル(Wiener Schnitzel)やハンガリー風牛肉の煮込みグラーシュ(Gulasch)など、スキー場ではあってもレストランのメニューは豊富です。午前中だけ滑って午後はのんびりするスキーヤーも多いので、多少ボリュームのある食事でも平気なのかもしれません。私はのんびりするのがもったいない気がして(日本人だから?)天気さえよければランチの後も滑りにいくので、重い食事はNGです。元来食いしん坊の私は失敗して学びました。ですから定番のランチはスープです。体が温まりますし、種類もあって飽きません。

まだまだ冬の続くパリですが、それでも日がだんだんと長くなり、日差しに春をかいま見る今日この頃です。北に位置する国では冬が美しいとは言いますが、パリのように中途半端な寒さでは雪もほとんどふりません。5ヶ月にも及ぶ冬の終わりには、頭上を覆う空のグレーがため息のもとになります。木々の葉を落とした枝先の固いつぼみを見つけては、春を待ちわびる2月でした。トリコロル・パリという日本語ウェブサイトに、パリ暮らしの女性がどんな服装で毎日を過ごしているかを記録したお天気カレンダーを見つけました。パリに来られる方でスーツケースにどんな服を入れたらよいのか迷った時には参考になりそうです。皆様も温かくしてお元気でお過ごしください。

トリコロル・パリ http://tricolorparis.com/meteo/

五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。