シチリアに夏の残りを求めて

: UPDATE /

 

時間によって光が変化する窓の景色 シラクーザのホテルにて
時間によって光が変化する窓の景色 シラクーザのホテルにて

大きな満月の夜

11月、晩秋のパリは17時を過ぎると暗くなる。コンサート中のバタクラン劇場などパリの市街地で多くの犠牲者を出したパリ同時テロから11月13日で一年経った。この一年にパリやニースでの大きなテロがあったため、フランスの都市部に住む我々は大きな物音に前より怯えるようになった。
6月の国民投票でEU離脱を選択したイギリスもそうだが、今回のアメリカ大統領選でトランプが当選したことを考えても、やはり国際協調の時代から孤立主義に向かっているのだと思う。ヨーロッパやアメリカだけでなく、日本と中国、日本とロシアの関係はどうなるのだろうか等と素人頭で考える。たくさんのニュース記事を寝る前に読んでしまったため、スーパームーンの夜はよく眠れなかった。それとも、10月末から11月生まれの長女や義母、夫の叔母の誕生日祝いの食事が続き、胃腸が疲れていたからか。下の写真は叔母の誕生日パーティのフランスチーズ4種で、パリ17区のチーズ店マーティン・デュボアMartine Duboisのもの。奥の白いクロミエ以外は全部シェーブルだから、きっと叔母はシェーブルが好きなのだろう。短く切ったストローで飾った黄色いのは、クリームチーズのようなものにカレー粉のようなスパイスを混ぜたもので、プラトーのアクセントになっている。

誕生日ビュッフェディナーのチーズ

誕生日ビュッフェディナーのチーズ 奥上から時計回りに
黒トリュフクリームを挟んだクロミエ(Coulommiers à la truffe melano)
セル=シュール=シェール(Selles-sur-Cher fermier)
セヴェンヌのペラルドン(Pélardon des Cévennes)
クロンヌ・デュ・タルヌ(Couronne du Tarn)

シチリア

イタリアは何度か旅行をしているが、シチリア島には行ったことがなかった。小森谷慶子さんの「シチリアに行きたい」(とんぼの本)を読んで、この複雑で豊かな歴史を持つ島に、いつか行きたいと思っていた。先月、そのシチリアへ15周年の結婚記念に数日間旅行をした。イタリアもそうだが、シチリアでもチーズが料理はもちろん、お菓子にも入っていて、チーズを口にしない日がなかったほどだ。
レストランでいただく前菜の盛り合わせには次の写真のように熟成チーズが入っていたし、シチリアのドルチェとして知られるカンノーロ(Cannolo)は砂糖を加えたリコッタチーズを円筒形のサクサクした生地に詰めてあるお菓子だ。ご存知のティラミスは、コーヒーを浸したビスキュイの上にマルカルポーネクリームをのせ、おろしたチョコレートやココアパウダーと合わせたものだ。こういう普通のティラミスもあったが、シチリア産のレモンと組み合わせた、レモンリキュール風味のティラミスや、シチリア産ピスタチオのティラミスもあった。おいしいものや甘いものが好きな人で、イタリアが嫌いという人はいないのではないかと思う。

チーズ、ドライトマト、オリーブ、ドライソーセージの前菜の盛り合わせ
チーズ、ドライトマト、オリーブ、ドライソーセージの前菜の盛り合わせ

島国育ちは島が好き

四国くらいの大きさの島に世界遺産が4つあるシチリア島はパリからの直行便があり、2時間半ほどと意外と近い。エトナ火山があり海に囲まれる自然も、オレンジやレモンの畑が広がる景色も、パレルモのアラブノルマン様式の王宮や黄金モザイクの内装の教会も、南東部ヴァル・ディ・ノートのバロック様式の街も、シラクーザのオルティジア島も、じっくり楽しむには数日では足りない。新鮮な魚やタコ、イカ、貝類が豊富で、手頃に、シンプルに食べられるものも島国育ち、日本人の私にはうれしい。「パリではこんなに毎日魚や貝を食べられないね」「パリだったら、4、5倍の値段がするよ」という私のつぶやきを夫は聞き飽きたに違いない。

シラクーザのマルシェにて シャコ
シラクーザのマルシェにて シャコ

 

サボテンの実
サボテンの実 皮をむいていただくが、ジャムにもできる。イタリアでは「インドのイチジク」と呼ばれている。

 

テネルミ(ロングズッキーニの葉)
テネルミ(ロングズッキーニの葉)

 

パレルモ パラティーナ礼拝堂(Cappella Palatina)
パレルモ パラティーナ礼拝堂(Cappella Palatina)

 

パレルモ オラトリオ・ディ・サンタチータ(Oratorio di Santa Cita)
パレルモ オラトリオ・ディ・サンタチータ(Oratorio di Santa Cita) 祈祷堂の四方の壁を覆うジャコモ・セルポッタのストゥッコの装飾が圧巻!

イタリアのチーズ

これまでにも紹介したパリ16区のチーズ店、フロマジュリー・ドートイユ(La Fromagerie d’Auteuil *1)は、ミシェル・フシュローさん(Michel Fouchereau)というフランス最高職人の熟成士がやっているお店だ。家の近所でもあり、チーズの品揃えも多く、商品の質が高いので、とても気に入っている。シチリアではゆっくりと食品の買い物をする時間がなかったので、代わりに先週末、代表的なイタリアチーズも揃っているフシュローさんの店へ行った。(代表的なイタリアチーズと言っても、フランスに住んでいれば、まだ食べたことのないものがいくつもありそうだが)

フロマジュリー・ドートイユのショーケース
フロマジュリー・ドートイユのショーケース

以前コラムで紹介したモリテルノというトリュフ入りペコリーノに加え、穏やかなゴルゴンゾーラ・クレム(ゴルゴンゾーラ・ドルチェ)、タレッジオ、48ヶ月熟成のパルミジャーノ・レッジャーノ*2の4種のイタリアチーズをフシュローさんの店で選び、日曜日の夕方に夫婦4組とそれぞれの子供達が集まった機会に出した。コラム用の写真を撮る間もないうちにほとんどなくなってしまったが、モリテルノを一口食べた仏人男性から「セ・テュン・テュエリC’est une tuerie!」と言う声が聞こえてきたから、まあいいか。Tuerieは殺戮という意味だが、ここでの意味は「やばい!これ、おいしすぎ」とでも訳そうか。

ゴルゴンゾーラは、青カビが少なく水分が多いドルチェと呼ばれるタイプで、穏やかで少し甘みがあり旨味が濃い。ブルーチーズを初めて試したい人には、フランスのロックフォールやイギリスのスティルトンよりもオススメだ。長女もフシュローさんの店のゴルゴンゾーラ・クレムはおいしいとパクパク食べていた。あれ、今までブルーには手を伸ばさなかったのにと後で思う。タレッジオもオレンジがかった表皮のウォッシュではあるが、他のウォッシュタイプのチーズに比べて匂いも少なく、つるんとした食感でとても食べやすい。2年熟成のパルミジャーノはナイフで小さく割っていただいた。

チーズとパンがあれば、ワインを片手におしゃべりする時間が盛り上がる。
甘いものを食べれば、しょっぱいものも食べたくなるのは道理で、お茶の時間にケーキと紅茶だけではなく、チーズとワイン、またはシャンパンを出しても喜ばれる。

もう一年くらい気に入っているチーズを聞かれるたびに、トリュフペーストが入ったモリテルノを勧めているが、皆さんも気に入ったチーズを見つけたら、ぜひ教えて下さい。皆さんの気になる&気に入りのチーズをコラムで取り上げてゆきたいと希望しています。
2016年最後のコラムにお付き合いをいただき、ありがとうございました。来たる2017年が皆さんにとって健康で実りの多い年になりますように。

パルミジャーノ・レッジャーノ
パルミジャーノ・レッジャーノ
品名 ペコリーノ・ディ・モリテルノ・アル・タルトゥフォ
(Pecorino di Moliterno al tartufo)
種類 セミハードタイプ
産地 サルディニア島または南部バジリカータ州
原料
品名 ゴルゴンゾーラ(Gorgonzola)
種類 青カビタイプ
産地 ロンバルディア州、ピエモンテ州
原料 牛乳
品名 タレッジオ(Taleggio)
種類 ウォッシュ(表皮を洗うチーズ)
産地 ロンバルディア州、ピエモンテ州、ヴェネト州
原料 牛乳
品名 パルミジャーノ・レッジャーノ(Parmigiano Reggiano)
種類 ハードタイプ
産地 エミリア=ロマーニャ州パルマ、レッジョ・エミリア他
原料 牛乳

*1 フロマジュリー・ドートイユ Facebook

*2 デノミナツィオーネ・ディ・オリージネ・プロテッタ(伊: Denominazione di Origine Protetta=DOP)ゴルゴンゾーラ、タレッジオ、パルミジャーノ・レッジャーノはDOP=原産地名称保護制度の名称をつけて販売することが許されており、フランスのAOC-AOPと同じ。

<参考チーズ図鑑>
・磯川まどか著 フロマージュ 上手にチーズを選ぶために 柴田書店
・Roland Barthelemy著 Guide du fromage Hachette Pratique

五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。