ヴァカンスばんざい!(Vive les vacances!)

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サントロペ(Saint Tropez)の休暇用レジデンスに滞在しています。サントロペは南を地中海に面したプロヴァンス=アルプ=コートダジュール地域圏のヴァール県(Var)にある小さな半島にある町です。ヴァール県という名前は聞いたことがなくても、地域圏の名前のプロヴァンス、アルプス、コートダジュールという地名はお聞きになったことがあると思います。名前からイメージする通り太陽が降り注ぎ、海と山があるこの地域は昔から観光業が最も重要な産業です。
パリから朝のフライトで到着した日は、大型のスーツケース3つの中身を出して整理してから、簡単な昼食を準備して食べ、近所のスーパーで3週間分の水や牛乳、食料品の買い出しをしました。車のトランクいっぱいに買い出ししたものを運び終えて、整理し終えて休憩したい親のそばでは、レジデンスのプールに泳ぎに行こうよと水着に着替えた子供たち。やれやれ、毎年同じパターンです。

La Plage des Salins へいざなう竹林の小道

スーパームーン

夕方、屋上テラスに上がってアペリティフで一服していると、見事な満月が東の空から上がってきました。いつもより大きくて明るい月にしばし目を奪われました。翌日の新聞でスーパームーンと呼ばれる満月だと知りました。ヴァカンスに出かけると普段とは違うものが見えて聞こえてくるようです。初日の予期せぬお月見から、感覚に敏感になってきました。潮風が木々の葉を揺らす音を聞き、ビーチで熱い砂を踏み、朝食のブリオーシュのオレンジの花の匂いを嗅ぎます。ヴァカンスの毎日は五感を刺激するのでしょうか。それともいつもは気がつかないのでしょうか。次の予定、または明日の、来週の、来月の予定を考えたり、あれこれと心配はしても、「今」ここにいる感じを失っていたのかもしれません。普段の活動を一旦停止し、住居を離れて別の場所に来ると、日常の繰り返しと義務の枠組みから抜け出します。自分を覆う薄い膜がはがれていくような感覚がします。旅をした昔の作家やアーティストもこんな感覚を味わって筆や絵筆を進めたのかもしれないと想像しました。

竹の小道の向こう側サランビーチ(La Plage des Salins)

好みの味の乳製品

真夏の南仏の眩しい太陽の下、同じく日差しの眩しいカリフォルニアを思い出しました。サンフランシスコの近郊に住んでいた頃の話です。2001年に渡米して間もなく、ヨーグルトの味がフランスや日本と違うことに気が付きました。知ったブランドのでも味が違っていて、気に入った味のヨーグルトがみつからないのです。牛乳はストラウス・ファミリー・クリーマリー(Strauss Family Creamery)など地元メーカーのオーガニック牛乳がおいしいと分かりました。バターは地元メーカーのオーガニックのものもおいしかったですし、フランスの西部ポワトゥー・シャラント地方のAOPバターや北西部ノルマンディ地方イズニーのAOPバターも見かければ買いました。

ヨーグルトは名前の知られたブランドのものから、初めて見るものまでいろいろ試しました。アメリカのスーパーにずらりと並んだヨーグルトは、一般的にファットフリーとうたい脂肪分が0%である一方で加糖のものは甘すぎると感じました。食感を変えるためにペクチン、ゼラチンやグアーガムなどが添加物として入っていたようでした。私が食べたいなあと思うのは、無糖でフルファット(脂肪分を調整して減らしていないもの)、添加物なし、そして酸味とミルクのコクがしっかりあるものです。甘さは砂糖やジャム、はちみつを入れて自分で調節するのが好みでした。フランス人の夫は毎日ヨーグルトが食べたいという人です。週末に行くスーパーでは乳製品の売り場でおいしそうなヨーグルトを探しました。

ようやくパヴェルズというメーカーのロシア風ヨーグルトを見つけました。ミルクペイル・マーケットという大型食料品店やホールフーズ・マーケット(オーガニック系食料品スーパー)に置いていました。ホームページ*1によればパヴェルズはサンフランシスコ・ベイエリアの地元メーカーで、北カリフォルニア産の牛乳を使用してヨーグルトを製造販売しています。前出のストラウス・ファミリー・クリーマリーは全米初オーガニック牛乳を製造しました。地元の材料でオーガニックの食品を作るメーカーはカリフォルニアでおいしい食品を見つけるポイントだったのかもと今は思います。

*1  Pavels

アメリカ在住フランス人が恋しがる食べものは?

フランス産チーズはアメリカの一般スーパーでは種類が少ないため、ベイエリアのフランスの友人達はマウンテンビューのある店に頻繁に買い出しに行っていました。Google本社があることでも知られるマウンテンビューにあるミルクペイル・マーケット(The Milk Pail Market)*2です。

ミルクペイルは昔の酪農家が使っていた取っ手のついたミルク容器のことです。おいしい乳製品を置くことで知られるこの食料品店にはぴったりの名前です。ミルクペイルにはフランス産のチーズや生クリーム、ヨーグルトが置いてありました。今考えてみても乳製品コーナーは経営者のこだわりを感じられるよい売り場でした。ウェブサイトを見る限りチーズなどの乳製品へのこだわりは今でも変わっていないので、今でもベイエリアのフランス人に愛されるていることでしょう。偶然ですが4年前に取材した *3ブリーチーズの製造者、フロマジュリー・ルゼー(Rouzaire)のグラット・パイユ(Gratte-Paille)(トリプルクリームチーズ)も置いているとホームページにありました。

10年前と比べると現在はアメリカ各地のチーズメーカーで本物のチーズ作りを志向するメーカーが増え、例えばカリフォルニアワインと合う本物の熟成チーズを楽しみたい人々も増えました。大都市にはアメリカ産、ヨーロッパ産の熟成チーズ専門店もあり、人気店となっているところもあります。アメリカチーズ事情にご興味を持たれた方は、西川久美子さんのコラム*4をご覧ください。

カリフォルニアにはヴァカンスではなく5年間定住したのですが、楽しんで肌で感じる感覚や印象を大事にしていたのはヴァカンス中の心境に似たところがありました。カリフォルニアでの住まいの地域は地中海性の気候だったので、カラッとした暑さや日照時間の多さなど毎年夏を過ごす南仏の気候と似ています。広がる青空に照り付ける太陽、灼けた肌を見るとカリフォルニアに住んでいた頃を思い出します。

*2 The Milk Pail Market
*3 「ブリーチーズの製造所を訪ねて」
*4 職人のチーズ1 ~カリフォルニア暮らしより~
 職人のチーズ2 ~カリフォルニア暮らしより~

太陽と土地の恵み

 

アーティショー・ポワヴラード(artichaut poivrade)

ガレット・デュ・ソブラン(La Galette du Soubran)

ちょうど一年前に当コラムで昨年春の天候不良で出産する山羊が少なく作れないために結局マルシェで手に入らなかったガレットと呼ぶシェーブルがあったと書きました。そのシェーブルをサントロぺのマルシェで買いました。一年間待ったかいがありました。このガレット、やっぱりおいしい。ガレットというとブルターニュ地方のそば粉のクレープや、一月に食べる菓子ガレット・デ・ロワを思い出しますが、「丸くて薄い」お菓子の総称でもあるようです。このシェーブルのガレットは大体200グラムありCDを一回り小さくした大きさでロマラン(ローズマリー)をのせて売っています。リヨンの北部ボージョレーの丘陵地帯(Claveisolles)村で作られる山羊乳の生乳100%の農家製チーズで製造者は La Chevrerie de la Grandouze です。

ソブラン山の麓でこのシェーブルが作られているところからガレット・デュ・ソブランという名前がついています。熟成期間は1週間から2週間。デリケートで柔らかい食感、口に広がるミルクの風味がパン・ド・カンパーニュやバゲットに合います。ボージョレー地方のシェーブルですからボージョレーの白とはとても合いそうです。やさしいミルクの味で酸味もほとんどなくふわふわとしたシェーブルですから合うワインは他にもいろいろありそうです。この日はプロヴァンスのロゼと一緒にいただきました。

La Galette du Soubran

クジェットの花

さあ、どう料理しましょうか。クジェット(ズッキーニ)の雄花

南仏の夏のマルシェではクジェットの花をよく目にします。ニースにいる友人が家庭菜園のクジェットの花を天ぷらにして、とてもおいしかったと書いていたので試したくなりました。それでマルシェで朝露に輝いていたクジェットの花を見て迷うことなく買いました。10個で5ユーロです。イタリアではモッツアレラを中に詰めてフリットにしたりするのでしょうか。南仏でもベニエと言って小麦粉、牛乳と卵の衣で揚げ物にします。調べてみるとリゾットを詰めたり、お肉を詰めて焼いたり揚げたりといろいろなお料理ができるようです。できるだけシンプルに食べたかったので、小麦粉を氷水で溶いた衣をつけて天ぷら(tempura de fleurs de courgette)にしました。もう最高でした。かすかにかぼちゃのような甘味があり、花びらの部分はサクサクで、がくに近いところはコリっとしています。クジェットの花の天ぷらはヴァカンス中のお料理の定番になりそうです。

Tempura de fleurs de courgette

夏の果実

白桃、黄桃、ネクタリンに、すももは緑の香り高いレーン・クロードや黄色く小粒のミラベルと甘酸っぱさがたまらない夏が旬の果物がたくさんあります。先週までいた田舎の家では銅の大鍋でアプリコット5キロを砂糖と煮てジャムにしました。今では冬でも夏のフルーツが手に入りますし市販のジャムも安いです。それでもパリは寒い季節が長く続くので、「夏のびん詰め」ジャムは家族の毎朝のお楽しみなのです。夏の陽光を閉じ込めたような色と甘酸っぱさで元気がでます。

手前からアプリコット、桃、ネクタリン、レーン・クロード

 

熟しだしたミュー(mûre)※ブラックベリー

田舎の家の庭には、りんごやすももなどの果樹や写真のミュー(mûre)、木苺のフランボワーズ、カシスが植えられていて熟してくると散歩しながらつまんでいます。この庭に果物じゃないのに果物のようにジャムやタルトにする植物があります。毎年春に暖かくなってくると、ぐんぐん茎をのばし葉を大きくし、株も2、3年たつうちにたくましくなってきました。その茎を数本切りとって葉っぱは捨てて皮を剥き5センチほどの軸状に切ってタルトにしました。何だか分かりますか。

ルバーブ(rhubarbe)です。生は青りんごのような香りがして酸っぱいのですが、焼くと柔らかくなり甘酸っぱい香りがします。ウィキペディアによるとルバーブはシベリア原産の多年草で日本語では食用大黄というそうです。ルバーブと同じタデ科ダイオウ属の根茎から漢方薬の大黄が作られているそうです。漢方薬も意外ですが、「蓼食う虫も好き好き」のタデ科植物というのも意外です。

何のタルト? la tarte à la rhubarbe

ルバーブが酸っぱいのでタルトに生クリームと卵と砂糖を合わせたものを流しんで焼くこともありますが、先週はパット・サブレー(Pâte sablée)(※サクサクしたタルト生地)に直接ルバーブをのせて焼きました。作り方はざっとこんな風です。夕食のデザートに食べるのに午後のうちに生地を作ってラップにつつんで冷蔵庫で寝かせておく。夕食の準備中に、伸ばした生地を型に入れ、皮をむいて切ったルバーブを並べて砂糖をふりかけ、バターをところどころに少しずつのせて焼く。ルバーブの使い方でほかに好きなのは、イチゴとルバーブのジャムやコンポートです。日本では北海道や長野の冷涼な地域で栽培され、朝市などでも売っているそうです。手に入れるチャンスがあればタルトやジャム作りをお試しください。

紹介するチーズや野菜、果物の味や香りが皆さんに伝わるとよいのにと思います。それはできませんけれど、南仏の夏の日差しや乾燥した空気をご想像になったり、ガレットというチーズを食べてみたいとか、フランスに旅行に行きたくなったとか感じていただけたら最高です。そろそろ夏の終わりです。日本の夏は湿気の多く高温で厳しい時期ではありますが、たくさんの思い出ができる季節ですね。どうぞ暑さで疲れたお身体を大切に労り、美しい秋に向けて健康で充実した日々をお過ごしください。またお会いしましょう。

五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。