トリュフとチーズのマリアージュ

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赤と黒にクリスタルの輝き ローマ Taverna Trilussa の前菜チーズプレート

秋冬はおいしい季節

ヨーロッパも日本も秋から冬は様々な食材が旬を迎える。昨年10月末に長女の12歳の誕生日を記念して、義父母も誘いローマを訪れた。飛行機やホテルの予約から、ガイドブックをめくりながら、旅行の予定を考えるプロセスが好きだ。初めて行く場所は土地勘がないから、観光スポットや交通の便利さ、治安などを考慮して宿泊先を選ぶのも、家族旅行予約担当の私としては腕の見せどころになる。

今回の旅行では毎朝マルシェが開かれているカンポ・デ・フィオーリ広場(Campo de’ Fiori)近くの短期滞在アパートを宿泊先とした。この選択は我ながら大当たりで、料理の好きな義母と私は毎朝広場を通るたびに写真のようなポルチーニ porcini(仏語:セップ(cèpes))やフランスでは見かけない形のラディッキオ(仏語:トレヴィス(trevise))に目を奪われ、パリに持って帰りたい食材の買い物リストが頭に浮かんだ。

パリよりも値段が求めやすいセップ茸 パリよりも値段が求めやすいセップ茸

 

左カステルフランコ 右ラディッキオ(タルティーボ) 左カステルフランコ 右ラディッキオ(タルティーボ)

ローマのレストランではポルチーニのグリル、アーティチョークのフライに舌鼓を打ち、食後はティラミスやリコッタチーズの蜂蜜がけをデザートに楽しんだ。ティラミスというデザートは単純ながら、マスカルポーネと生クリームとコーヒーとビスキュイの組み合わせを考えた人を称えたくなる。リコッタの蜂蜜がけは「ふわふわしているけれど泡立てているの?」とウェイターに尋ねたほど軽い食感に驚いた。パリに戻ってリコッタの蜂蜜がけを再現したら、それほど違わないものにはなったが、ローマのタヴェルナ(食堂)のものは、チーズ自体がもっとおいしかった。

ティラミス ティラミス

 

リコッタ 蜂蜜をたっぷりかけて リコッタ 蜂蜜をたっぷりかけて

トリュフと卵

イタリアの食事は比較的シンプルに食材の力をうまく引き出していると思うが、中でも今回印象に残ったのは白トリュフのスライスをのせた半熟の目玉焼きだった。目玉焼きと侮ることなかれ。火の通り具合が絶妙な目玉焼きは銅のミニフライパンでサーブされ、目の前で白トリュフを専用のスライサーで薄く削いで入れてくれる。熱で白トリュフの香りが立ちのぼり、嗅覚と味覚の桃源郷。こんな言葉で煙に巻くしかないのはそもそも説明ができないから。鍋底が綺麗になるまでパンでぬぐって食べても行儀が悪いなんて言わないでほしい。ちなみに白いトリュフはイタリア・アルバ産、黒いトリュフはフランスの南西部ペリゴール地方のものが有名だ。

トリュフそのものをこうしていただく機会はとても限られているから、匂いを表現したり比較することは難しいけれど、白トリュフの方が鮮烈で黒トリュフはもっと丸い感じがする。ブリア・サヴァランは「美味礼賛」でトリュフについて数ページにわたって記述している。それを読むと19世紀にはトリュフは今よりも頻繁に食べられていたことが分かり、しかも「エロチック」な効能もあると信じられていたらしい。もっともサヴァラン氏は周りの人々にインタビューをした結果、「トリュフは決して積極的な催淫剤ではないが、場合によっては婦人たちをいっそう柔順にし、殿方をいっそう優しくする」と書いている。おいしいものを食べた時に感じる快感を媚薬効果と言ってしまえばそれまでだが、トリュフの匂いの感じ方に男女で差があるとChem-Stationという化学ポータルサイトの記事「魅惑の香り、漂う香り、つんざく臭い」*2にあるから、単なる迷信とも片付けられない気がする。

ところで、松茸の匂いは一般に西洋の人に理解されないというが、トリュフのこの強烈な「匂い」もある人にとっては「臭い」でしかないようだ。我が家では次女が苦手のようだが、彼女はマッシュルームやしいたけも苦手だから、地下に生えるキノコのトリュフが苦手なのも納得できる。

銅のフライパンで供される白トリュフのせ目玉焼き 銅のフライパンで供される白トリュフのせ目玉焼き

トリュフ入りペコリーノにはまる

昨年の夏、トリュフの入ったイタリアンチーズをお土産にいただく機会があった。外皮が黒っぽい灰色で牛乳が原料のSottocenere al Tartufo(読み方はソットチェネーレ?)というチーズだったようだ。ちょうどその晩友人を招いてディナーの予定があったから、小さく切ってアペリティフに出した。これが人気で、ものの2、3分で全部なくなった。後を引くおいしさというのか「もうちょっと食べたかったなあ」と思った。

しばらくしてその願いは叶う。秋のローマで「モナリザ」(Monna Lisa Pecorino con tartufo)という名前のトリュフ入りペコリーノに出会った。Tartufoというのはトリュフのイタリア語だ。そのモナリザを買ってパリまで持ち帰り楽しんだ。その後12月の大晦日にまたトリュフ入りペコリーノをいただく機会があった。自宅で友人家族を呼んでディナーをと、チーズを買いに行った地元の名店フロマジュリー、ミシェル・フシュローさんの店*1でもモナリザが売っていた。買おうかどうか思案していたら店の人から「モナリザもおいしいけれど、こっちはトリュフの味が濃厚で違うおいしさだよ」と見せられたのが「モリテルノ」(Moliterno al tartufo) 5~8ヶ月熟成させたペコリーノに黒トリュフのペーストを注射するように加えてある。表面は酢とオリーブオイルで磨いてあるそうで、少しデコボコした表面に光沢が出ている。チーズの断面に鉱脈のように走る黒いトリュフに興味が湧いて、即購入を決めた。

このような顛末で3回にわたって3種類食べた黒トリュフ入りイタリアンチーズの中では、このモリテルノが一番個性的でトリュフの香りが強い。ソットチェネーレやモナリザはチーズを作る時点でトリュフの粒を混ぜ込んであるみたいだが、モリテルノは熟成後に黒トリュフペーストを入れている違いがある。

さて、このモリテルノだが店の包装を開けると黒トリュフの香りが辺りに広がり、どっしりした味わいで少しポロポロした食感の羊乳チーズがトリュフの強い香りに負けずに調和してとてもいい。トリュフペーストの部分がおいしいのは当たり前だけれど、ペーストの入っていない部分にもしっかりトリュフの香りが移っている。

大晦日に買ったモリテルノは260gで16,95ユーロだったからチーズとしてはかなり高価なものだ。先に紹介した地元フロマジュリーの熟成士フシュローさんによれば、モリテルノは季節によっては酸味が感じられたりして、味が一定ではないそうだ。素人の考えでも、夏と冬で放牧の場所を移動する(移牧)羊から搾乳して作るチーズに一定した味を求めることはできないと思う。そのあたりは熟成士の腕の見せ所でもあるのだろう。買う方としても、店の人に相談して「今」おいしいチーズを勧めてもらえるからこそ、スーパーではなくわざわざフロマジュリーに買いに行く。

大晦日のディナーの時は料理の仕上げに忙しく黒トリュフ入りモリテルノの写真を撮り損ねたが、どうしてもこのコラムで紹介したかったので、年明けにもう一度買いに行ったのが下の写真の200g。このチーズ、アメリカでも人気があるのかネットの記事に英文のものが多かったが日本にも輸入されているようだ。

品名 ペコリーノ・モリテルノ・タルトゥフォ
Pecorino di Moliterno al tartufo
産地 イタリア サルディニア島または南部バジリカータ州
原料乳
タイプ セミハード
ペコリーノ・モリテルノ ペコリーノ・モリテルノ

 

ピノッキオ人形の店で ピノッキオ人形の店で

生牡蠣(カキ)は好きですか

生ガキならいくらでも食べられるという友人が何人かいるが、皆さんはどうですか。私はおいしいとは思うものの3つもいただけば充分なほう。しかし、このノエルにディナーで出たカキは5つくらい食べても、もう沢山という気にならなかった。私と同じくそれほど生ガキが好物とは言えない夫も、皿に殻をどんどん重ねていっていたから今回食べたカキが特別良かったのだろうか。

フランス人は生ガキが大好きで、寒くなると商店街やレストランの店先にスタンドが出る。産地、種類、大きさなどによって値段が違い、一番大きいものが数字のゼロで示され、1、2、3と数字が大きくなるにつれサイズが小さくなる。好みのものを指差していくつ欲しいと伝えると、その場でカキをむいて用意してくれる。発泡スチロールのプレート(下の写真のプレートがそう)に氷を敷いて、殻の一方をお皿にしたカキを入れてくれるから、自宅でサーブするときはレモンや酢を添えるだけでいい。カキをむくのが億劫でなければ、そのまま買って食べる前に専用ナイフで殻を開ける。

ちなみに魚屋で同じように生きたウニも売っていて、トゲトゲの殻に穴を開けて、中のオレンジの身(生殖腺)が食べられるように用意してくれる。たっぷり食べるところがあるかないかは開けてみないとわからないのが玉に瑕だが、ミョウバンで処理したウニを使っているところが多い寿司屋のウニよりも鮮度がいいものが食べられる。牡蠣、ウニに限らず様々な魚貝類はプレートに盛り合わせた物を注文できるが、特にクリスマスの時期に一番消費されていると聞いた。

生ガキ 生ガキ

普段、肉食の方が多いフランス人がどうしてこの時期、魚介類を食べるのが疑問で周りのフランス人に聞いたことがある。その時の答えで一番納得できたのは、昔は輸送手段が今ほど発達していなかったから、海から遠い内陸のパリやその他の都市では海の幸は高価で貴重なご馳走だったのではないかという説明だ。確かに24日のディナーも、25日のランチ、大晦日のディナーと、牡蠣などの魚介類やお肉でも普段は食卓に上らないごちそうのお肉が登場する。下の写真のフォアグラやトリュフを詰めて焼いたシャポン(肥育した去勢鶏)もそういう食材のひとつだ。

仔牛肉のミンチとフォアグラ、トリュフ、栗を詰めてオーブン焼きしたシャポン 仔牛肉のミンチとフォアグラ、トリュフ、栗を詰めてオーブン焼きしたシャポン

 

シャポンの付け合わせ 栗のピューレ シャポンの付け合わせ 栗のピューレ

私は大阪市内出身で「くいだおれ」の街の子らしい年末の思い出がある。市内中央区の黒門(くろもん)市場*3まで、食材の買い物をする母に何度かついて行ったことがある。母が「てっさ」と言ってフグの刺身やフグ鍋の「てっちり」用に準備してもらったものを買えば、さっぱりしているのに澄んだ旨味があるてっさとてっちりを期待して、食いしん坊の私は待ちきれない思いがした。魚屋の氷の上でプリプリ動くフグをちょっと哀れに思ったりもしたが、哀れに思う心よりも食欲の方が勝っているのだから仕方がない。寒い中買い物客でにぎわう市場や店の人のかけ声といった雰囲気も懐かしい。年末年始の風景は年々変わり、国によっても地方によっても違うだろう。このコラムを読んでくださる皆さんの子どもの頃の年末年始の風景も機会があればぜひ聞いてみたい。

当コラムは本年、奇数月の月末に更新していく予定です。
またどうぞよろしくお付き合いください。
皆さんにとって2016年が健康に恵まれた幸せな一年になるようお祈りします。

ノエルのプラトー 手前右から時計回りにブルー・ドーヴェルニュ、サン・マルセラン、モン・ドール ノエルのプラトー 手前右から時計回りに
ブルー・ドーヴェルニュ、サン・マルセラン、モン・ドール

*1 フロマジュリー・ド・オートゥイユ
 (2014年4月30日のコラム「春を感じるフロマージュ」にも登場)
 58 Rue Auteuil, 75016 Paris, France
 Tel: 01 45 25 07 10
 フランス語HP http://www.lafromageriedauteuil.fr/

*2 Chemo-Station「魅惑の香り、漂う香り、つんざく臭い」

*3 黒門市場

五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。