ジャポニズム2018

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花の散るらむ

4月が来ると「ひさかたの光のどけき春の日に静心なく花の散るらむ」という紀友則の和歌を思い出します。のどかな春の日に散りゆく桜を見て、儚さや切なさを感じる心情は1000年経っても変わらない。パリに咲く八重桜を眺め歩きつつ、季節や草木、暮らしに対する感覚は日本に生まれ育って身心についたものだなあと改めて思うこの頃です。

先日ポッドキャストでラジオを聞いていたら、俳優の津川雅彦さんが出演されていて、今年、パリで日本文化の紹介イベントを多数行う旨のお話をされていました。そこで、「ジャポニズム2018:響きあう魂」と題した日本政府主催の複合型文化芸術イベントのプログラムを公式サイトで見てみました。ジャポニズムという言葉は、19世紀後半から20世紀初めにかけて、日本の美術工芸品が西洋の美術、工芸、装飾などに影響を与えた現象を指すようです。ジャポニズムを2018年に日本から仕掛けようではないかという、攻めの日本文化外交です。

DRUM TAODRUM TAO公式サイトより画像引用

「ジャポニスム 2018:響きあう魂」では、パリ内外の100近くの会場で、展覧会や舞台公演に加えて、さまざまな文化芸術を約8ヶ月間にわたって紹介していきます。古くは日本文化の原点とも言うべき縄文から伊藤若冲、琳派、そして最新のメディア・アート、アニメ、マンガまで、さらには歌舞伎から現代演劇や初音ミクまで、日本文化の多様性に富んだ魅力を紹介します。同時に、食や祭りなど日本人の日常生活に根ざした文化をテーマにした交流イベントも開催します。
公式ウェブサイト:ジャポニズム2018からの引用)

舞台や展覧会の数々のプログラムに今から胸が躍ります。 縄文、若冲、琳派などの展覧会は数ヶ月単位の開催期間があるので、のんびり会期が来るのを待ちますが、舞台は1日限りのものもあるので早めに予約しないと見そびれそうです!9月の宮本亜門演出 能×3D映像 『YUGEN 幽玄』や2月の蜷川幸雄演出『海辺のカフカ』などの舞台公演もプログラムにあります。

和太鼓サウンドに先祖の血が踊るという夫は(どんな先祖がいたのか!)上の写真の和太鼓パフォーマンスを観に行きたいらしく、中学生の長女は「初音ミクコンサート」や「刀剣乱舞」の2.5次元ミュージカルに行きたいと話しています。アニメでも音楽でも入口はどこでもいいのです。日本の文化や芸術に興味を持つパリジャンが増えるのは、パリに住まう日本人として大歓迎です。

シェーブルにタイムの葉をまぶして

日本は早くも夏のような暑さだと聞きました。熱中症予防にもチーズは良いそうです。筋肉は体に水分を蓄える働きをしているので、しっかりタンパク質を摂って効率よく筋肉を維持、増やすのにチーズやヨーグルト、牛乳は手軽で良い食品なのだそうです。フランス人は、チーズと一緒に生野菜のサラダを食べますが、チーズのたんぱく質と季節の野菜のミネラル、ビタミンを一緒に取るのは、夏バテ対策としても理にかなっていますね。

下の写真は名前は不明のシェーブルです。シェーブルにタイムの香りが加わり、一口いただくと潅木の生える南仏の地中海沿岸、石灰岩質の乾燥した土地や光のイメージが湧き上がります。暖かい季節に冷やしたロゼワインと一緒に楽しむのに合いそうです。

タイムをつけて熟成させたシェーブルタイムをつけて熟成させたシェーブル

地中海沿岸の石灰岩質の土地はガリッグ(Garrigue)と呼ばれ、タイムやローズマリーなど乾燥に強いハーブ類や潅木が生えています。
ローヴ・ド・ガリッグ(Roves des Garrigues)というお団子型のシェーブルが、ガリッグの植物を食べるローヴ種のヤギのミルクから作られ、ガリッグのハーブの香りを楽しめるチーズとして知られていたり、このコラムでも紹介したサントロペのガレットというシェーブルもローズマリーの葉をのせて香りを移しています。シェーブルにハーブという組み合わせに改めて注目すると、和食の刺身にわさび、汁物に三つ葉、卵豆腐に木の芽のように、風味づけとしてハーブがチーズに合うのですね。

キッチンに立ちたくなくなる暑い日の夕方には、田舎パンをトーストして、シェーブルを乗せてハーブを散らし、オリーブオイルを振りかけたら食事代わりの軽食になりそうです。夏野菜のスティックかトマトのサラダがあれば食事としても成り立ちますね。

ガリッグ Wikipédiaフランス語版より画像引用ガリッグ Wikipédiaフランス語版より画像引用

ブルー・ド・ラクイユ

もう一つ取り上げるチーズはブルー・ド・ラクイユです。19世紀に作られ始め、約30年間製造中止になったものの、20年ほど前から再び作られるようになりました。フランスのチーズ事典(Le Guide des Fromages MILAN)には、強いにおいであるとか、コクがあると書かれているのですが、私の食べたものは熟成が若いからでしょうか、滑らかでしっとりしていて、バランスのとれた塩味で、洗練された印象が残りました。「チーズ図鑑」(文芸春秋編)や「フロマージュ」(磯川まどか著 柴田書店)には研究熱心なチーズ農家がブルー・ド・ラクイユを作ったとあります。

4種のチーズ左手前から時計回りに
ブリー・ド・モー
グリュイエール・アルパージュ
セル・シュール・シェール
ブルー・ド・ラクイユ

1850年にオーヴェルニュ地方ラクイユ村のチーズ農家のアントワーヌ・ルースルさんがライ麦パンについた青カビを混ぜてチーズを作ったところ評判になり、この地域の特産品になったというエピソードを「フロマージュ」は伝えます。ラクイユ村にはルースル氏のブロンズの胸像が立っているそうですが、発明した個人も年代も特定されているフランスチーズはあまりないのではないでしょうか。

オーヴェルニュ地方はフランスの南西部にあり、大部分を農村と山岳地帯が占めます。ブルー・ドーヴェルニュやカンタル、サレルス、サン・ネクテールなど、この地方で作られるチーズの種は豊富です。ピュイ・ド・ドームという古い火山もあり、水源が多く、フランスのミネラルウォーターのヴォルヴィック(Volvic)やヴィシー(Vichy)はこの地方のものだそうです。日本でも見かけるのでご存知かもしれません。火山があれば温泉(スパ)もあるので、一度訪れてみたいと思っている土地です。

日本ではゴールデンウィークで旅行にお出かけの方も多い時期ですね。その土地の食べ物を知るのも、旅行の楽しさの一つだと思います。フランスにいらしたら、パリ周辺だけでなく、地方にも足を伸ばしてみてください。食べ物や料理もそうですが、文化や習慣など、きっと何か新しい発見があると思います。

品名ブルー・ド・ラクイユ Bleu de Laqueuille
原料乳牛乳
産地オーヴェルニュ地方
熟成期間約3ヶ月
大きさ直径19-20cm
厚さ8.5-10cm
重さ2.3-2.7kg
五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。