アペリティフの時間

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田舎の家で過ごす週末、ディナーの準備も整った頃「アペリティフ(食前酒)にしない?」と家族の誰かが言い出します。
シャンパンとグラスとおつまみをトレイにのせたら、それまで遊びに夢中の子供たちもおつまみ目当てに居間のローテーブルを囲んで座ります。
「santé!サンテ!(健康を願って)」と乾杯したら皆くつろいだ顔に。こんな風にディナーの前にアペリティフを楽しむ習慣があります。


数年前にBOBO=ブルジョア・ボヘミアンの間で流行ったアペロ“apéro”やアペリティフ・ディナトワール“apéritif dinatoire”という食習慣がすっかり定着した感じがします。
英語で言うとbuffet dinner party やcocktail partyに当たります。オーソドックスなディナーは前菜、メイン、チーズ、サラダ、デザートと順番で出しますが、アペロやアペリティフ・ディナトワールはおつまみやアミューズを数種類、飲み物と一緒に出すカジュアルなものです。
この新しい食習慣から新商品も生まれ、オーブンで温めるだけのおつまみも種類が増えています。



チーズを使ったアペリティフ用おつまみ
左から羊のチーズのブレビ入りプチシュースナック、
真ん中 ロックフォールとクルミのせパイ
右 斬新な唇型フロマージュ・ブラン&赤パプリカ、フォアグラ&木いちご

アペリティフに友人が来るとき買っておくものは例えば、オリーブ、ピスタチオ、生ハム、 ソシソン・セックsaucisson sec(日本ではサラミと呼ばれるもの)、メロンなどです。
フォアグラやスモークサーモンのカナッペも簡単でおいしいです。ちなみにフランス人家族、親戚には小袋入りの日本のあられや枝豆が好評です。低カロリーだからなんだとか。


フォアグラのカナッペ
いちじくのジャムをのせて

 


薄切りトーストに
バター、イクラをのせて

ケーク・サレcakes salés(野菜やチーズを入れたお惣菜感覚の塩味ケーキ)やプチフール・サレpetits fours salésもよく見ます。旨味が濃くいろいろアレンジができる食材としてチーズが本当によく使われています。友人がうちで5分で作ってくれたカマンベールと薄切りりんごのサンドイッチ(パンの代わりにりんごでチーズを挟む)は特に印象に残っています。
チーズのねっとりとりんごのさくっとした食感の違い、チーズとりんごのさわやかな風味のコンビネーションに感心。
そう言えばカマンベールもりんごもノルマンディ地方の特産ですから合うわけですね。熱々のとろけるチーズがお好きならミニ・クロックムッシューはいかがですか。数年前から流行のヴェリーヌverrines(小さなグラスに入ったアミューズ)もテーブルを華やかにしてくれます。


ミニ・クロックムッシュー

食前酒のお酒はシャンパン、シードル(りんご酒)、パスティス(水割りにすると白くなるアニス風味のリキュール)などが人気があります。


トマトのコンフィ、パルメザンチーズの
パンナコッタのヴェリーヌ

ご近所さんとアペリティフ

先週の金曜日はフェット・デ・ヴォアザン“La fête des voisins”(隣人祭り)でした。
フランスだけでなくヨーロッパ各地に広まりつつあるフェット・デ・ヴォアザン 隣人祭りは、毎年5月の最終金曜日にあります。同じアパルトマンの住民同士で集まり食べ物や飲み物を持ち寄っておしゃべりを楽しむ会です。
住宅のほとんどが集合住宅のパリではアパルトマンのロビーで行うところが多いようです。
しばらく前から「時間:18時から20時 食べ物、飲み物の持ち寄りをお願いします」と書き込みのあるポスターがアパルトマンのロビーにも貼られました。去年のフェットで少し年上のお子さんに遊んでもらったのと、おつまみがいろいろ食べられるのに味をしめた我が家の長女は「行こうよ、行くよね?」「何持ってくの?」と毎日のように私に確認します。


各自持ち寄った食べ物はチーズや生ハムのせたクラッカー、オリーブ、ソシソン・セック、甘いものはマカロン、一口サイズのガトー・ショコラやカップケーキなどがありました。私は前回はミニどら焼き、今回は餃子を焼いて持ってゆきました。日本の食べ物は他の人と重ならないところもいいのですが、意外に年配のご近所さんにも喜ばれます。立食形式でアペリティフ片手におつまみをいただきつつ、おしゃべりに花を咲かせます。


飲み物片手にご近所さんとおしゃべり

都会の無関心さや近所付き合いのないところは気楽な反面、防犯上問題が生じやすいことに気づかせてくれた会でもありました。
去年の隣人祭りの直前のこと、
同じアパルトマンに住む年配の女性がエレベーターの中でノックアウト強盗の被害に遭い持ち物をすべて取られ怪我をしました。
強盗は外からついて入ってきたのだそうです。隣人祭りではこの話題で持ち切りで「住人同士お互いを知ることが大事」という意見で一致しました。
この事件をきっかけに建物入り口に防犯カメラを設置し、カメラ付きインターフォンに換えることになったのですが、まずは住民が知らない人の出入りをもう少し警戒しましょうという雰囲気になりました。


グリッシーニとソシソン・セック

1999年にアナターズ・ペリファンさん(ヨーロッパご近所連帯協会プレジデント「隣人祭り、建物祭り」発起人)の呼びかけで始まったこのフェット・デ・ヴォアザン隣人祭りはヨーロッパ中に広まり新しい伝統となりつつあります。準備もお金もほとんどかからず、さりげなくご近所さんとの関係を築けるところがいいと思います。

詳しくは隣人祭り日本支部サイトから
ペリファンさんメッセージ
 http://www.rinjinmatsuri.jp/main/index.php/perifan
隣人祭りサイト(英語・フランス語)
 http://www.european-neighbours-day.com/en


パティシエの住人が持ち寄ったカップケーキ

6月第一木曜日はアペリティフの日!

今年は6月6日木曜日に日本全国各地でアペリティフのイベントが行われます。
フランス農水省とフランス食品振興会(SOPEXA)の主催で世界10カ国で開催されている「アペリティフin Japan」日本では10年目の今年、東京、京都、仙台、大阪、横浜、埼玉、千葉、名古屋、岡山、高知、宮崎、豊橋、金沢の13都市で開催を予定しています。

ワインやカクテルと一緒にアミューズ(一口ディッシュ)を味わいながらおしゃべりする“アペリティフ”を楽しむこのイベント、残念ながらフランスでは開催されていない様子。フランスの食文化振興が目的ですから本国ではその必要がないのでしょうが、こういうイベントがパリで開催されたら観光客も地元の人も行きたいと思うでしょう。日本で活躍するフレンチのトップシェフが腕によりをかけたアミューズをウェブサイトで見ましたがプロのアミューズは美しくてため息ものです。
詳しくはこちらから http://aperitif.jp/

家族、友人とのアペリティフ、隣人祭りでのアペリティフ、フランス食文化のプロモーションとしての「アペリティフの日」を取り上げました。
とにかくおしゃべり好きで、おいしいもの、おいしいお酒が好きなフランス人がアペリティフの時間に何を食べどんな風に楽しんでいるのかが少しでも皆様に伝わりましたら幸いです。
忙しい一日の終わりに休息へとリズムを変えてくれるアペリティフを時々取り入れてみませんか。

五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。