夏の過ごし方 ~カリフォルニア暮らしより~

アメリカからの便り 2012~ : UPDATE /

いよいよ夏休み

6月。アメリカではいよいよ楽しい夏の始まりです。特に私の住んでいたサンノゼを含むシリコンバレー一帯の北カリフォルニアでは夏の間はほぼ一滴も雨が降らず、爽やかな日が続いてとても快適です。日差しは強烈ですが湿気が少ないので、大抵の日はちょっと日陰に入れば肌寒いくらいの涼しさです。
6月に入ってしばらくすると、ぼちぼちどこの学校も夏休みに入ります。実質的には5月の最終月曜日のMemorial Day (戦没将兵追悼記念日の祭日)を含む連休から気分はもう夏休み。子どもたちにとっては8月下旬に始まる新学期まで宿題もない、長い夏休みの始まりです。この間は旅行に行くもよし、様々な場所やテーマで行われるサマーキャンプ(1週間単位の日帰りキャンプも多い)に参加するもよし、楽しい毎日です。

6月のサンフランシスコ市内。曲がりくねった坂道で有名なランバートストリートも花盛り。

夏の宵

アメリカのほとんどの地域では夏時間(Daylight Saving Timeと呼ばれます)が導入されています。6月あたりですと夜8時半頃までずっと明るいので、あちこちでコンサート、映画上映会、演劇など夏の夕べを楽しむ野外イベントが開催されます。ただしシリコンバレーの6月は平均最高気温が27℃、平均最低気温が11℃と夜間はかなり冷え込むので、うっかり薄着で楽しんでいると日が落ちた途端震え上がることになります。ちなみにサンフランシスコは殊に冬温かく、夏寒い気候ですので、夏の昼間でも上着が必要です。高くそびえ立つヤシの木などで暖かいイメージを持たれるカリフォルニアですが、もし夏にいらっしゃることがあれば、ぜひちょっと厚めのジャケットをお持ちいただきたいと思います。
夕方肌寒くなったら家の中で過ごせば?と思ってしまうのですが、それでも皆さん外が大好きらしく、カフェでも家の庭でもパティオ・ヒーターという街灯のような形の屋外用暖房機が使われます。また、ファイアー・ボウルという焚き火用の設備を備えたお庭もあります。

サンノゼ市近郊キャンベル市のダウンタウンの街角で行われる上映会。歩きまわるのにちょうど良いサイズのこぢんまりした小さなダウンタウンなので、昼間も楽しい。写真はキャンベル市のホームページより。

夏の庭

日本でもカリフォルニアといえばオレンジ、グレープフルーツ、アボカドなどなど、豊富なフルーツで有名ですが、実際家の庭にもあらゆる果実が実ります。私たちが借りていた家には幸運なことに広い庭があったので、そこではオレンジ、レモン、いちじく、リンゴが実っていました。また隣の家とは一般的に高い板塀で区切られているのですが、この板塀を越えてきた作物は頂いて良い、という面白い不文律がありますので、おとなりから到来するブドウや梨、ブラックベリーやラズベリーなども楽しみでした。ただし、おいしい果物は小鳥やリスにとっても大好物。熟すのを待っていたら先にリスにとられた、なんていうこともしばしばです。

裏庭のオレンジと手製のマーマレード。

豊富な果物を使ったジャムやお菓子作りも盛んで、私も庭で実ったオレンジでマーマレードやケーキ、りんごからはアップル・パイなどを作っていました。また、春から8月ごろにかけて庭先で養蜂をしている人もいます。自家製のジャムやハチミツを頂くと、ほっこりしたとても豊かで嬉しい気持ちになります。

こちらも裏庭から。
Granny Smithという品種の青りんご。

衝撃のハンバーガー

地元のキリスト教会の聖歌隊に飛び込み、毎週歌うことを楽しみにしていた私ですが、この教会では年に一度チャーチピクニックがありました。近くの公園で料理を持ち寄りバーベキューをして、みんなで楽しく遊ぶという趣旨のものです。この時食べたハンバーガーが私にとっては実に衝撃的でした。恥ずかしながら、それまでは私の中では「ハンバーガー=ファーストフード」ぐらいの位置づけでしかなかったのです。ところが公園の大きなバーベキューグリルで炭火焼にしたパティを挟んだハンバーガーを頬張った途端、それまでのハンバーガーのイメージはどこかへ吹っ飛んでしまいました。
「公園のバーベキューグリル」についてちょっと補足説明を致しますと、私の住んでいたあたり一帯には広々とした芝生や楽しい遊具が完備された立派な公園が点在していて、そのほとんどにはテーブルとベンチを備えたピクニック・エリアがありました。大抵はそこに小学校の机ぐらいの大きさの四角いバーベキューグリルが備え付けられており、だれでもチャコール(炭)と食材さえ持ってくれば気軽にバーベキューを楽しめるようになっていました。とくに下の写真の公園ではご覧の木柵に囲まれた広大なバーベキューエリアがあって、牛一頭でも焼けるかしらと思うような大きなバーベキューグリルを備えたキッチンがありました。前述のチャーチピクニックはかなり大人数での催しでしたので、パティこそ既成の冷凍ものでしたが、炭火で焼きたて(火の上でチーズも乗せてもらえる)のパティをバンズにはさみ、自分でトマトやレタス、ケチャップやマスタードなどを思い思いにはさんで作ったハンバーガーの楽しさとおいしさと言ったら素晴らしいものでした。

公園のバーベキューエリアでのチャーチピクニックの様子

各々が持ち寄ったお料理の数々や、食後のアイスクリーム食べ放題(手作り、市販品あわせて、バケツサイズのものを持った人が長テーブルにズラリと並んで「私のアイスクリームをどうぞ!」とお皿に盛りつけてくれます)、そしてその後のゲームを含めて、それは楽しくて美味しい夏の思い出です。

こちらは別の公園のピクニックエリア。
黒くて四角いのがバーベキューグリル

とにかくバーベキュー!

そこらへんの公園にもバーベキューグリルがあるぐらいですから、アメリカ人のバーベキューに掛ける情熱はすごいなあと驚くことがたびたびありました。
まず一家に一台と言って過言ではないほどバーベキューグリルがあります。我が家にあったものはころんと丸くて炭火を使うもの。こちらは味は最高ですが、なにしろ炭火を使うのでちょっと火起こしや後片付けが面倒です。多くの家庭では手軽に食材を焼くためにガス式のバーベキューグリルも大変人気です。広大な庭がなくともアパートのベランダ、道ばた、公園はもちろん野球場の駐車場などなどあらゆるところでバーベキューを楽しむ姿が見られます。

友人宅のバーベキューグリル。
台の下にプロパンガスボンベを入れ使う。

たかがバーベキューと侮る事なかれ。アメリカのバーベキューでは焼肉タイプの日本とは違って、魚や肉も豪快に大きな塊を調理することがほとんどです。巷ではそれらをいかに柔らかく、美味しく焼くか?そのための漬け液は?ソースは?一緒に食べる料理や飲み物は?などのことが書かれた分厚い料理本もたくさん販売されています。バーベキューを意味するGrillingは一般的に男の料理。アメリカの理想的なお父さんであるためにはGrillingと日曜大工が巧みであることは必須要件なのです。

筆者所蔵の分厚いレシピ本。
その名も「Grilling Bible」。

最高のハンバーガー

さて、いよいよ理想のハンバーガーの作り方をご紹介したいと思います。ハンバーグと見た目も名前もよく似ているせいか、ハンバーガーのパティはどうも日本では意外なほど認識が薄いような気がします。特に調理の下ごしらえで粘りが出るまでよく捏ねるハンバーグと反対に、ハンバーガーパティは極力捏ねることを避ける、という大きな違いがあります。
アメリカでは一般的にどの肉も相対的に脂肪分の少ないもの(たとえばトリならモモ肉よりムネ肉)の方が高級とされます。ひき肉にも通常脂肪分が何パーセント含まれるか明記され、赤身率が高い方もののがやはり高価です。けれどもハンバーガーパティの場合はあまり赤身だけではパサパサになってしまい、逆に脂肪分が多いと焼いた時に油が落ちて縮んでしまうので、赤身85%前後の牛粗びき肉が理想的とされています。日本では質の良い赤身の牛ひき肉を入手するのは少々難しいですが、できれば精肉店で赤身肉を挽いてもらうと良いと思います。これをできるだけ捏ねないように円盤状に素早く成型します。一人分150〜200g程度の大きくふんわりした塊を作り、約30分間寝かせておきます。これをよく熱したバーベキューの火格子(油を塗っておく)に乗せて、中火で裏表あわせて約10分間焼きます。
焼き上がりにチーズを乗せるとチーズがとろりとかかったおいしいチーズバーガーになります。一般的なのは「アメリカンチーズ」と呼ばれるオレンジ色のプロセスチーズですが、もちろんアメリカで人気のモントレージャック、チェダー、またはコルビージャック、ちょっと変わった風味を楽しみたい場合にはゴルゴンゾーラなどのブルーチーズを合わせても美味しく頂けます。トマトやレタス、ピクルスなども食べる人がそれぞれお好みでバンズに挟んで、オーダーメイドのハンバーガーをお楽しみ下さい。 カロリーが気になる方はバンズの代わりにレタスの束を使うのもお薦めです。アボカドをはさんでカリフォルニア風、パティと一緒に軽く焼いたパイナップルスライスをはさんだハワイ風、などなどアレンジもあなた次第です。

友人宅のバーベキューで作ったチーズバーガー。
ゴマがついたセミハードタイプのバンズに香ばしく焼いたボリュームたっぷりのパティが香り高い一品です。
焼いてくれたご主人も「ほら、うちのハンバーガーは美味しいだろう!」とご満悦。

チーズを使ったおいしい一品

さて、最後に美味しいものがきっとお好きな読者の皆様のためにチーズを使ったバーベキュー料理をもう一品ご紹介したいと思います。「Food & Wine」というレシピ本で見つけた「Cheese-Stuffed Grilled Peppers」、つまり「チーズ詰め焼きペッパー(唐辛子)」です。
サンフランシスコの有名レストラン・ブルバードで長年ワインディレクターを務めるパーキンス、ランカスターの二氏がプライベートでおもてなしをする時の得意料理だそうですが、実にシンプルで美味しそうです。ぜひ次回のバーベキューでは試してみたいものですね。

作り方は
1. リコッタチーズ1カップ、クリームチーズ(室温にもどす)1カップ、おろしたてのパルメジャーノ
 レッジャーノチーズ1/2カップを塩コショウで味を整えながら混ぜる
2. ナイフでペッパー(オリジナルのレシピではアナハイム、キューバネール、またはポブラーノなどの
 辛くない種類の唐辛子。カリフォルニアや南米では入手しやすいが、日本では万願寺唐辛子、ピーマンなどで
 代用できる)やベビーパプリカのヘタを落としてから中身の種を繰り抜く。落としたヘタはとっておく。
3. 2.のペッパーやパプリカに1.のチーズを詰め(バターナイフを使うと良い)、とっておいたヘタで蓋をする。
 全体にオリーブオイルを塗り、中火に熱したバーベキューグリルに乗せて時々ひっくり返しながら約7分間焼く。
 中のチーズがとろりととけ、ペッパーの皮に焼き目がついたら出来上がり。熱々を頂く。
 下ごしらえを前日しておくと便利。

FOOD & WINE annual cookbook ~ an entire year of recipes 2010 より
西川久美子

本職はピアノ弾き。3年2ヶ月の米国カリフォルニア州サンノゼ暮らしを経て、現在関西在住。 夫、息子、娘との4人ぐらし。趣味は歌、ズンバ、ピラティス、お菓子作り。