チーズプラスα

: UPDATE /

日本では冷え込みが厳しい毎日だそうですが、パリはよく雨が降っています。パリの人は雨でもあまり傘をさしません。ざあざあ降ることはほとんどないからです。霧雨やしとしとと降る雨が多いのでウィンドブレーカーや撥水コート程度で事足りるのかもしれません。歩道が狭い場所が多いので、傘は通行の邪魔になるのもあるでしょう。
冬休みに入った子供達は、山下達郎の歌のように雨が雪に変わるクリスマスを期待しているみたいです。でも急に冷え込んで気温がマイナスにでもならない限り残念ながらホワイトクリスマスとはいかないでしょう。それに大人は寒がりなんですからこれ以上寒いのは困ります。

味の見本市、サロン・サヴァール

サロン・サヴァール*1を再び訪れました。
昨年12月にも当コラムでご紹介した「味の見本市」です。プロ向けの見本市ではなく、大規模の会場に一般客がおいしいものを買いに行く特設市場です。昨年おいしいものを見つけたスタンドの食品や食材は、今回一緒に回った友人達にも好評でしたので皆さんにご紹介したいと思います。

*1 サロン・サヴァール(Salon Saveurs)(仏語)
 2015年の予定
  11月18日から22日パリ、ポルト・ド・ヴェルサイユ会場
  12月4日から7日パリ、エスパス・シャンペレ会場

アジャン地方の干しプルーン(Pruneaux d’Agen)

日本でもプルーンは売っていますし、鉄分や繊維が豊富ということもあって日常的に食べている方は多いでしょう。以前住んでいたカリフォルニアも少し内陸部にいくと果樹園が広がり、プルーンの産地としては世界一の収穫量かと思います。当然プルーンは他のドライフルーツに並んでどこでも売られています。けれども日本でもカリフォルニアでもプルーンをおいしいと思ったことがありません。そう、フランスの南西部アジャン産のプルーンに出会うまでは。

フランスのプルーンは水分がかなり残っていてやわらかです。フランス語版Wikipediaによれば干すといっても現在は70度から80度のオーブンで水分を抜いた後に、お湯につけて水分を調整するという作業で作っているようです。アジャン産のプルーンは、皮が薄くて果肉は柔らかです。おだやかな甘みが緑茶にもあいます。 今はちょうどこの8月から9月に収穫された果実で作ったプルーンが出回る頃です。ドライフルーツではあっても新鮮なものが断然おいしいです。

我が家では朝食やおやつにそのまま食べます。時々はアペリティフのおつまみにもします。プルーンをベーコンや鴨のスモークの薄切りで巻いて爪楊枝をさし、フライパンやオーブンで温めるように焼いて出します。プルーンの甘みとベーコンの塩味ではっきりした味なのでワインだけでなくビールにもあいそうです。果実の甘みと肉やチーズを合わせるのがフランス人は好きですし、私も好きです。

干しイチジクのフォアグラ詰め

写真のものはトルコ産の有機栽培イチジクと鴨のフォアグラ、食後酒のピノー・デ・シャラント(Pineau des Charentes:シャラント地方で作られる甘口酒精強化ワイン)を使って作られ、フィドウセットと名付けられています。同様のイチジクはマルシェなどでフォアグラの主産地、フランス南西部ペリゴールのスタンドでも買えます。ただサロン・サヴァールに出展しているプレスティージ・ド・ノ・テロワール(Prestiges de nos Terroirs)*2のものは、上質で風味がすばらしいです。干しイチジクの優しい甘さ、フォアグラの塩味と脂肪のうまみにピノー・デ・シャラントのお酒の風味が加わり一体になったおいしさを奏でます。

アペリティフのおつまみにも、サラダにのせても、スライスしたものをポワレした鴨の胸肉にのせてディナーにだしてもよいそうです。フォアグラは古代ローマ人がガチョウにイチジクを与えて肥育させて、肝臓を食べたのが始まりと言われているとWikipediaにあります。イチジクとフォアグラの組み合わせを試して成功した美食家の想像力や食べる事への執着の強さには脱帽です。やはりここでも果実の甘みと動物性脂肪のうまみと塩味を合わせています。

*2 プレスティージ・ド・ノ・テロワール(Prestiges de nos Terroirs)(仏語)

les fidoucettes

フラテッリ・バージオ(Fratelli Burgio)の保存食品

サロン・サヴァールはフランスの食品、農産物、海産物が中心ですが、イタリア、ギリシャ、北アフリカ、そして日本の食品もあります。

チェリートマトのキャビア(ドライトマトペースト)にドライトマトのオイル漬け、カポナータにペスト・ジェノベーゼ(バジルペースト)、アーティチョークのペースト、次々と味見させてもらった商品を全部欲しいと思ったのはこのイタリアのスタンドです。悩んだ割には素早く決断をして580gの大瓶入りのチェリートマトのキャビアとオリーブオイルに漬かったドライトマト、そして塩漬けケッパーを買いました。ドライトマトはローリエやケッパー、フェンネルやバジルもオイルに漬け込んであって風味がよいのです。去年も来た客だと私を覚えていた店の女性サビーナは今年も友人を連れて買い物に来てくれたとよろこんで私と連れの二人にカポナータのお土産までいただきました。カポナータは素材の味が生かされていて上品です。この店のカポナータを思い出して比べてしまいそうなので、自分で作るのはやめたくなりました。それよりもバカンスにシチリアのシラキュースまで行き、毎日デリと食料品店をかねるというFratelli Burgio*3に食べに行きたい気がします。トリップアドバイザーのレビューにあった食事の写真を見たのですが、相当おいしそうです。食いしん坊の虫が南イタリアに飛んで行きたいと訴えています。

*3 Fratelli Burgio:トリップアドバイザーのレビュー

ドライトマトのオイル漬けとチェリートマトのキャビア

プラハへの小旅行

先月日本から来ていた家族と一緒にプラハを訪れました。
フランスは西ヨーロッパのだいたい真ん中に位置します。ヨーロッパ各都市に飛行機で行くのは日本の国内線を利用するのと同じ感覚です。パリ-プラハ間は一時間半ほどでしたので、日本で言うと東京—札幌間の飛行時間です。

私も連れの二人もプラハは初めてです。チェコについてあまり知りません。オーストリア・ハンガリー帝国の一部だったとか、ソ連の衛星国だったがソ連の崩壊後に民主化したとか、チェコとスロバキアは別になったのは20年ほど前だったとかその程度です。作曲家のスメタナやドボルザークはチェコ人だったと思うんだけれどという程度です。でもプラハはチェコ語が一言も話せないまま行っても歓迎してくれる鷹揚な街でした。(そこがパリとは違う!)古都のたたずまいに長い歴史が感じられ、経済活動も盛んでとにかく活気にあふれていました。

ヴルダヴァ(モルダウ)にかかる橋と風景

建築の美術館

ゴシック様式の教会、ルネサンス様式の火薬塔と宮殿、アールヌーヴォーのステンドグラスなどが一つの街にまとまってありました。なるほど建築の美術館の形容がぴったりです。プラハ市内にロマネスクもゴシックもルネサンスもバロックもロココ様式もすべての様式の建築物があるそうです。建築に詳しい人に説明してもらったり、事前に知識として知っておいてから見れば一層楽しいでしょう。私たちがプラハを4日間歩いて見たのはほんの一部で、まだまだすばらしい景色も奥深い魅力も謎めいた場所もあると思わせられます。

黄金と精緻なアラベスク模様スペイン・シナゴーグ*4

ここはアルハンブラ宮殿かと思うような場所がプラハにありました。上の写真のシナゴーグはムーア様式の装飾からスペイン・シナゴーグとして知られています。プラハのユダヤ地区が大きな観光スポットとなっており、さほど大きくない地区全体がいわばユダヤ博物館として世界中から多くの観光客を集めていることをガイドブックを読んで知りました。それもそのはずで中世最大のユダヤ人のゲットー*5がプラハにあり、現在でも6つものシナゴーグが一つの地区に隣同士、向かい同士のようにかたまって存在します。その大部分が博物館として一般に公開されています。

そういえば、プラハのユダヤ人家庭に生まれ幼少時をこの地区で過ごしたというフランツ・カフカの写真やポスターをプラハ中で見かけました。20代か30代の肖像写真は端正な青年そのものです。「不思議でクレイジーで悪夢のような小説を書いた作家」のように思っていましたが、私の勝手な想像と写真から受けるイメージは違っていました。青年時の写真で見るとカフカは端正なまなざしで魅力的でした。

プラハの小径を散歩

チェコの作家と言えばカレル・チャペックもとても有名です。「ダーシェンカ、あるいは子犬の生活」や「園芸家12ヶ月」という楽しいエッセイを学生のころに読んだのを思い出しました。再びカフカやチャペックのページをお供に冬の夜長を過ごすのもいいなあと思います。旅行中はもちろんチェコ料理もいただきました。お料理はオーストリアやハンガリーあるいはドイツと似ている印象です。グラーシュは牛肉とタマネギとパプリカなどを使ったシチュー料理ですが、プラハのものもパプリカとクミンがきいていて、最後まで飽きずに食べられておいしかったです。

*4 シナゴーグ:ユダヤ教の会堂
*5 ゲットー:ユダヤ人の強制居住区

チェコのグラーシュ クネドリーキという茹でパンが添えられています

チーズプラスα

この季節のお祝いの席にふさわしいチーズってどんなものでしょうか。定番はプラトーにいろんな種類のチーズを載せ、クルミや干しフルーツを添えて華やかに盛りつけたもの。大人数でしたら一抱えほどあるモンドールひとつをガラスの大皿に載せて出すと歓声があがること間違いなしです。

時々行くヴェルサイユ通りのマルシェのそばにフロマジュリー・ベイユヴェール(Fromagerie Beillevaire)というチーズ屋があります。いつでも興味をそそられるチーズが見つかり、よく相談に乗ってくれる店員さんがいます。2015年の未年にちなんで羊のチーズのブルビを選び、見た目も味も華やかなイチジククリームを挟んだブリーと塩田の華という名前のシェーブルも買いました。お祝いの多いこの季節は、このブリーのようにブリーやブリア・サヴァランの中にトリュフクリームやハーブクリーム、ピスタチオなどをはさんだチーズがよく売られています。

左奥から時計回りに
Grosse Tomme de l’Aveyron
アヴェロン県の羊のチーズ
草と花の香りがふわっとたち、しっかりした旨味があるのに優しくおだやか。

Brie aux Figues
イチジククリームを挟んだブリー
ブリーは生乳製 外側が柔らかくなり中に少し芯が残るくらいの熟成具合。

Fleur des Marais Salants
「塩田の華」というユニークな名前がついたシェーブル、Deux-Sèvres県
クリームチーズみたいに柔らかいのにシェーブルらしい味と香りが
ちゃんと主張している。

写真右奥のブリーには刻んだ干しイチジクとチーズクリームが入っています。
写真左奥のブルビはそのままでもおいしいものですが、バスク地方では黒サクランボのジャムと合わせていただくのが人気です。また写真手前のシェーブルは蜂蜜といただいても合います。チーズをパンにのせて食べるのはもちろんおいしいですが、サラダと一緒にいただくとヴィネグレットの酸味がチーズの味をさらに引き立てます。またチーズとドライフルーツのようにチーズプラスαでマリアージュを楽しむのもいいものです。

今回のコラムでは、気がつけば塩味と甘味の組み合わせをご紹介していました。皆さんの好きな甘辛味はどんな組み合わせですか。そういえばお正月にいただくお節料理も栗きんとんなどの甘味、数の子などの塩味、肉やえびの旨味、なますの酸味がバランスよくそろっています。何かと何かを合わせるとお互いのよさが引き立ち、見た目にも美しい組み合わせというのは考えてみればたくさんありそうです。私はお肉と果実を組み合わせたお料理も好きです。子羊とプルーンのタジン、ミルクの入った白いソーセージのブダンブランとリンゴ、肥育鶏シャポンのローストと栗の付け合わせなど。魚介類ではイカやホタテとグレープフルーツ、サーモンのタルタルにマンゴーなども合いますね。
来年もコラムを通してフランス生活やフランスの食文化、食に関するイベントをお伝えし、またチーズを買いに行こうと感じてもらえるようなおいしいチーズをご紹介できたらと願っています。

Bonne Fin d’Année et Joyeuses Fêtes.
楽しい年の瀬と新年をお迎えください。

コウノトリの装飾 プラハにて
五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。