盛夏の夕べにシャンパンとチーズ

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おつまみオリーブ おつまみオリーブ
エクス・アン・プロヴァンスのマルシェにて 手前はイタリアのカチョカヴァッロ エクス・アン・プロヴァンスのマルシェにて
手前はイタリアのカチョカヴァッロ

7月の初めからテロ事件が頻発しています。
昨年から大きなテロ事件のニュースに感覚が麻痺したのか、私の周囲の人間はあまり驚かなくなっています。こういう時に食べ物のことを書くのは不謹慎なのかと思いもするし、「これおいしそうでしょう?」と紹介する気分にはなかなかならず、逡巡しているうちにお約束した締め切りの日が来てしまいます。一方で、気持ちの滅入る事件が多いこんな時だからこそ、人との付き合いを楽しんで、食事や外出も楽しもう、とも思います。7月のコラムに最後までお付き合いいただけると幸いです。

孤立主義へ向かうのか

差別的発言を繰り返しながら、今日18日から始まる共和党大会での大統領候補に正式に指名されるドナルド・トランプ。ここまで支持を集めるとは、当初誰も予想していませんでした。個人的に面白いと思った候補者はヒラリー・クリントンではなく、バーニー・サンダースです。民主党内の予備選をここまで戦い、ヒラリー・クリントンに次いで支持を集めました。この人はアメリカの政治家にしては相当リベラルで社会主義的な考えに基づく政策を打ち出す「民主社会主義者」です。ユダヤ系で民主社会主義者のサンダースが、ここまでアメリカの大統領選に残ったのが興味深くて軽くウォッチしていました。高等教育の無料化(公立大学の学費無料化)という彼の政策方針は、指名候補争いから撤退したものの、民主党の指名候補になったヒラリーの政策方針に採用されるようです。この人は国民皆保険も提唱しています。税金を相当上げないと財源が出ないので、ヒラリーはオバマケアを継承するようです。同じ民主党からの候補者でもウォール街から高額の寄付金を得ているヒラリー、草の根募金でここまで来たサンダースといい、これまで政治とは何の関わりもなかった富豪の実業家で、テレビ番組でタレントとして人気が出たトランプと、このバラバラさが面白いです。

イギリスのEU離脱の国民投票の結果にも驚かされました。中間層と貧困層の差が大きくなっているところに、移民がたくさん入りヨーロッパの社会問題化しているのはご存知の通りです。私自身も結婚によってフランスに移り住んだ「移民」(国籍は日本のまま)ですが、移民をめぐる議論が日本でもっとマスコミで取り上げられたらいいのにと感じています。安い労働力として入れた外国人が子、孫の代へ亘って定住するのは、ヨーロッパを見ても、アメリカを見ても必然なのだから、日本が労働人口が減り続けているという理由で安易に移民を入れると必ず社会不安を呼びます。

日本では先の参院選から18歳から投票できるようになったことだし、もっと政治を身近に感じて、自分のこととして考える人が増え、国益のために行動する候補に投票する人が増えていけばいいと願っています。新聞やニュースの見方も変えて、政治、経済、外交、安全保障が全部つながっていると自覚すると、世の中への関心が深まると実感しているのは、若い頃あまりにも政治に無関心だった反省も相まってです。石原慎太郎さんは産経のコラム(2016. 7.18)で書いておられました。EU離脱も頻発するテロも有色人種への支配と収奪を続けてきたおごった白人への報いであり、「ヨーロッパの凋落」を表している、確かにそういう面はあると思います。現在は作家でおられるからコラムのテーマとしてはそれだけでいいのかもしれないけれど、政治家であれば、そこで停止してほしくないと思いました。今回選挙で選ばれた参議院議員には国民の命を守るための政策を取りまとめて欲しいです。

エクス・アン・プロヴァンスのマルシェにて 旬のいちご エクス・アン・プロヴァンスのマルシェにて
旬のいちご

多様性がキーワード

どこで読んだのか忘れてしまいましたが、印象に残った言葉がありました。「人は島のようなもので、海を隔てて離れているように見えるが、実は海の底で繋がっている」人も国も孤立しては存在しえない。写真は先月南仏のエクス・アン・プロヴァンスのマルシェ(野外市場)で撮ったスナップ写真です。オリーブの漬け物店に並ぶオリーブには、このようにいろんな色、大きさがあります。味わいも若い爽やかなものから熟した柔らかいものまでいろいろ。でも植物としては同じオリーブ。多様性が大事なのは人間でも他のことでも同じなのかなと思います。持続可能性とともに多様性が今のキーワードとしてよく紹介されるのがうなずけます。

エクス・アン・プロヴァンスのマルシェにて フランス版の漬物-オリーブの塩漬け、酢漬け エクス・アン・プロヴァンスのマルシェにて
フランス版の漬物-オリーブの塩漬け、酢漬け

ホームパーティの華

ホームパーティの華 シャンパンとチーズ ホームパーティの華 シャンパンとチーズ

昨今のニュースからコラムの前半はどうしても肩に力が入ってしまいましたが、この辺りで緩めましょう。
ホームパーティがフランスの食習慣として定着していることは、何度かコラムを読んでくださった方はもうご存知だと思います。フレンチホームパーティの食事にはシャンパンとチーズが外せません!義理の叔母のうちではホームパーティの時に、パリ17区のおいしいチーズ店、「マーティン・デュボワ」(Fromagerie Martine DUBOIS)*1でプラトゥを注文するので、私は特に楽しみにしています。

上の写真のように、このチーズ店は目にも楽しいプラトゥ(=盆)を準備してくれます。後に詳しく紹介しますが、写真下の5種のチーズの盛り合わせには、専用器具で削いで、花の形にまとめたテット・デュ・モアンやカレー風味をつけたクリームチーズを小さくまとめたものや、赤褐色のパート・ドゥ・コワン(Pâte de Coing)が彩りと華やかさを添えています。
パート・ドゥ・コワンというのはマルメロという花梨に近い種類の果物を水煮して、皮を除き、ミキサーにかけ、砂糖で煮詰めたものです。フランスの菓子店には必ずパート・ドゥ・フリュイ(Pâte de Fruits)というペクチンで固めたゼリーがあるのをご存知の方もおられると思います。マルメロの庭木がある人は固い大きな実がなるので、パート・ドゥ・コワンを手作りしています。ジャムやコンポートを作るのと手間はあまり変わりません。このパート・ドゥ・コワンは、それだけで食べると甘すぎるように思いますが、塩っ気のあるチーズと合わせて食べると調和がとれてなかなかいいものです。

シャンパンでほどく。ゆるめる。

義理の叔父はお酒が大好きで、毎回違ったシャンパンやワインでもてなしてくれます。上の写真のシャンパンはヴーヴ・クリコ(Veuve Cliquot)でしたが、義父はルイナール(Ruinart)が好みでよく飲んでいます。ここからは叔父の受け売りで申し訳ないのですが、シャンパンの効用を一つ紹介します。(根拠はなく、個人的な意見ですが)

大人数の集まる立食パーティで、知り合いがほとんどいない、または知り合い、友人や同僚がまだ到着していないという状況はどなたも経験あると思います。そんな時は、一直線にバーへ行きシャンパンをグラスに注いでもらってください。泡のせいなのか、一口飲むと数十秒で脳にアルコールが届き、すぐにリラックスして、知らない人の輪に加わって、おしゃべりが楽しめるようになるそうです。シャンパンは一瞬で緊張をゆるめてくれる効果があるのでしょう。暑い日の日暮れ後のパーティでは写真下の鮭の冷製(コーブイヨン(court-bouillon)で茹でて冷ましたもの)と、ダイス状に切ったマンゴとパパイヤと、水にさらした玉ねぎのスライスをライムとサラダ油のドレッシングで和えたサラダなど、さっぱりした食事が合いました。1日仕事をして緊張の解けないまま帰宅した時、あるいは、立食パーティで知らない人の間に入っていくときに、グラス一杯のシャンパンで、緊張がほどけていくというプロセスは魅力があります。

夏のホームパーティに鮭の燻製 夏のホームパーティに鮭の燻製

プラトゥ・デュ・フロマージュ

Martine Duboisのチーズプレート Martine Duboisのチーズプレート
左下から時計回りにブリー・ア・ラ・トリュフ(トリュフ入りブリー)、コンテ2014年夏物、シャビシュー・デュ・ポワトゥAOP(ポワトゥ産シャビシュー)、トム・ドゥ・プロヴァンス・ア・ラ・サリエット、オッソー=イラティ

トリュフ入りのブリーも、2年熟成のコンテもおいしいけれど、上のプラトゥの中でシェーブル好きの私が紹介したいと思ったのは、やっぱりシェーブルです。一番上、時計の12時の箇所にあるシャビシュー・デュ・ポワトゥ(Chabichou du Poitou)とその右手、2時の箇所にある、トム・ドゥ・プロヴァンス・ア・ラ・サリエット(Tomme de Provence à la sarriette)は両方ともシェーブルですが、見た目も食感も違います。

前者のシャビシュー・デュ・ポワトゥはどんなチーズの本にも、その歴史や由来が必ず紹介されています。「チーズにまつわる伝説」はフランス人でもよく知らない人がほとんどです。私は夫や友人、あるいは夫の家族、親類には知ったばかりのチーズの話を「知ったかぶり」で講釈しているのですが、フランス人がお米について日本人に講釈するようなもので、我ながら浅はかな行為だと思います。

チーズ伝説は色々ありますが、シャビシュー・デュ・ポワトゥも歴史が長く、伝説のチーズでありながら、現代でも代表的なシェーブルの一つで愛されています。伝説部分については、ネットにも多く紹介されているので詳しくは述べず、簡単に紹介します。シャビシュー・デュ・ポワトゥはフランス西部のポワトゥ地方で作られているシェーブルです。732年に南スペインから進軍したアラブ系のサラセン人はポワティエの戦いで、シャルル・マルテルに敗れますが、その時にサラセン人はポワトゥ地方に山羊の飼育法とチーズの作り方を伝えたということです。*2シャビシューのシャビの部分もフランス語で山羊を意味するシェーブルという語もアラビア語から来ているようですね。以前掲載させていただいたコラムで、シェーブルの由来についても書きましたのでご興味があれば覗いてみてください。*3

シャビシュー・デュ・ポワトゥの味わいは、繊細で、まろやかで、クリームのコクも感じられ、ほんの少し酸味があります。この酸味には蜂蜜の甘みがぴったり合うので、「シェーブルに蜂蜜をタラーリ」も試してみてください。

後者のトム・ドゥ・プロヴァンス・ア・ラ・サリエットは、トム・ドゥ・プロヴァンスというプロヴァンス地方のシェーブルにサリエットというハーブがまぶしてあるチーズです。サリエットをまぶしたものを初めていただきましたが、強く香るサリエットと、切るとトロっと中身のでてくる熟成具合のトム・ドゥ・プロヴァンスは非常に合いました。ちなみにサリエットはシソ科の植物で、冷え性、更年期の女性にオススメのハーブだとか。プランターで育てて、ハーブティーにしても良さそうですね。ハーブをチーズにまぶして食べるというアイディアは緑と白のコントラストができてきれいだし、いいと思いませんか。チーズの塩気に甘みをプラスする技を覚えたところで、次はチーズ&ハーブ?などと想像するのも楽しいものです。

暑さ厳しい折、皆さまの健康を祈ります。

品名 シャビシュー・デュ・ポワトゥ AOC-AOP(Chabichou du Poitou)
種類 シェーブル
産地 ポワトゥ地方
原料 山羊乳
重さ 150g
熟成期間 最低10日間
品名 トム・ドゥ・プロヴァンス(Tomme de Provence)
種類 シェーブル
産地 プロヴァンス-アルプス-コート・ダジュール地方
原料 低温度殺菌の山羊乳
重さ 100g
熟成期間 3週間
大木になったバラが見事な7月の田舎の庭 大木になったバラが見事な7月の田舎の庭

*1 MartineDubois & Fils
 80 rue de Tocqueville 75017 Paris
 0142271138
 火曜日から木曜日 8:30−13:00/16:00-20:00
 金曜日 8:30—13:30/15:30−20:00
 土曜日 8:30−19:45
 日曜日 9:00−13:00
 
*2 参考文献 フロマージュ 磯川まどか著 柴田書店
 
*3 夏の食卓で楽しむチーズ「シェーブル」

エクス・アン・プロヴァンス名物菓子のカリソン・デックス(Calissons d’Aix) エクス・アン・プロヴァンス名物菓子のカリソン・デックス(Calissons d’Aix)
五条ミショノウさやか

2004年からパリに在住。 家族は夫と娘が二人。 業界誌や講演録などの英日翻訳をしています。